梅咲きぬ/山本一力

梅咲きぬ
梅咲きぬ
山本 一力

江戸深川門前仲町の料亭「江戸家」四代目女将、秀弥。
この物語は、彼女が玉枝と呼ばれた幼少の頃から中年に至るまでの話である。

山本さんの作品は直木賞を受賞した「あかね空」もそうだけど、いわゆる人情話である。

玉枝は生まれた時から老舗の跡を継ぐことを運命付けらており、しかし母親の後ろ姿を追いながらそれに憧れ、厳しい修行を積む子供時代。

厳しくも優しい踊りのおっしゃん(師匠)とその連れ合いとの関係は、血は繋がってはいなくとも、本当の祖父母と孫のようで微笑ましい。
もちろん、師匠である春雅は小さな子供にも普通以上に厳しいしつけをする。
そして玉枝も、そのことの道理を素直に受け止め、けなげに実践する。

母親である三代目秀弥は、富岡八幡宮氏子総代を勤め地元の人望も厚い。
深川衆の心意気として、助け合いの精神が高く、日照りで米不足で値上がりし庶民の家計を圧迫している時でも、米屋は損をしてでも、ぎりぎりで米を売った。

大尽も貧乏人も、老舗のあるじも日雇いの職人も、誰もが身の丈に合ったやり方で、互いに暮らしを支え合った。
その気風が深川である。江戸の方々で米が足りない、高いと人が騒いでも、深川はしっかりと生きていた。

そして武士八木仁之助との決して叶わぬ恋。
お互い好き合いながら、身分と立場の違い故に別離を迎える。
たった一度のキスを最後に。

きれいごと、と言ってしまえばそうかもしれない。
しかし、今の世にあってこの物語が与える感動は無視すべきではない。

作者のおそらくそういった思いもこもった、傑作です。


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